
ユーロバンク(Eurobank S.A.)は、ギリシャのアテネに本社を置く、ギリシャの4大メガバンクの第4位の商業銀行グループ。 ギリシャのほか、キプロス、ブルガリア、ルクセンブルクなどに事業拠点を展開し、小売銀行業務、法人金融、資産運用、保険、投資銀行業務など幅広い金融サービスを提供している。その起源は1990年に設立された投資銀行に遡り、以後、数次にわたる合併と資本再編、そして2019年から2020年にかけての持株会社体制への移行と2025年の同体制解消という2度にわたる組織形態の転換を経て、今日の姿に至っている。資産規模で、ピレウス銀行(Piraeus Bank)、ギリシャ国民銀行(National Bank of Greece)、アルファ銀行(Alpha Bank)に次ぐ。時価総額は約170億米ドル〜180億米ドル(2026)。
ユーロバンクの企業史をたどると、その源流の1つは1924年にまで遡る。同年、ヴァシリオス・カラヴァシリスという人物により「ヴィー・カラヴァシリス・タバコ・カンパニー・アンド・バンク」という会社が設立された。この会社は1937年に「カラヴァシリス銀行」、1952年に「プロフェッショナル・クレジット・バンク」と改称され、1964年にはギリシャ国立銀行(National Bank of Greece)に買収されている。買収後の1992年、この銀行は「アテネ銀行(Bank of Athens)」へと名称を改めた。この系譜は、後に1999年の合併を通じてユーロバンクの企業体に組み込まれることとなる。
現在のユーロバンクに直接つながるもう1つの、そしてより本質的な起源は、1990年に設立された「ユーロメルチャント銀行(Euromerchant Bank S.A.)」である。同行はギリシャの海運及び実業家一族として知られるラツィス家、とりわけスピロス・ラツィス氏の主導により、国家統制色の強い既存の大手銀行に対抗する新たな金融機関として構想された。設立当初の事業領域は大衆向けの小口金融ではなく、法人向け金融、貿易金融、そして富裕層向けの資産管理業務に重点を置くものであった。1990年代初頭のギリシャは金融自由化と欧州統合への準備が進行していた時期にあたり、同行はこうした規制緩和の潮流を捉えて急速な拡大を図った。1994年には、スイス・ルクセンブルクを拠点とする金融グループであるEFGグループ傘下のEFGプライベート・バンク(ルクセンブルク)の事業の75%を引き継いでいる。
1997年、ユーロメルチャント銀行は「EFGユーロバンク」へと改称し、インターバンク・ギリシャ及びクレディ・リヨネのギリシャ支店網を買収することで事業基盤を拡大した。1998年には、後に長年にわたり中核子会社となるブルガリアのポストバンクの株式78.23%を取得している。1999年2月にはEFGユーロバンクがクレタバンクと合併し、同年3月には、前述のアテネ銀行がEFGユーロバンクに吸収合併された。これにより、1924年に起源を持つ系譜と、1990年に設立された系譜という2つの流れが1つの企業体へと統合されることとなった。
2000年、EFGユーロバンクはギリシャの老舗銀行として知られるエルガシアス銀行を買収し、社名を「EFGユーロバンク・エルガシアス」へと改めた。この合併により、同行は資産規模及び店舗網の両面でギリシャ国内有数の銀行としての地位を確立した。同年にはルーマニアのバンクポストの株式19.25%を取得し、東欧市場への足がかりを築いている。2002年にはテレシス・インベストメント・バンクと合併するとともに、アリコ及びCEHバルカン・ホールディングスの株式50%を取得し、これを通じてポストバンクへの出資比率を43%まで引き上げた。2003年にはユニットバンクを合併するとともに、ルーマニア及びキプロスにおいてクレジットカード関連の小売金融子会社を設立し、セルビアでも同年にポストバンカAD ベオグラードの株式68%を取得した。2006年には、セルビアの旧営業拠点を統合してユーロバンクAD(Eurobank a.d.)として単一ブランド化するとともに、トルコのテクフェンバンクの株式70%、ウクライナのユニバーサル・バンクの株式99.3%、そしてブルガリアのポストバンクに対する出資比率を74.3%へと引き上げ、南東欧及び黒海周辺地域における広範な銀行網を築き上げた。
2008年に顕在化した世界金融危機は、欧州の金融機関全般に深刻な影響を及ぼしたが、ギリシャの銀行にとってはこれに続く同国の政府債務危機がさらに大きな試練となった。2010年から2015年にかけて、ギリシャは複数回にわたる国際的な金融支援を受けることとなり、国内銀行の不良債権比率は急激に悪化した。ユーロバンクもこの間、資本増強と資産の圧縮を余儀なくされ、2012年には保有していたポーランドの営業拠点ポルバンクの株式70%をオーストリアのライファイゼン・バンク・インターナショナルに売却し、同年12月にはトルコのテクフェンバンクの全株式をクウェートのバーガン銀行へ売却するなど、非中核資産の整理を進めた。
2011年8月、ユーロバンクはギリシャの同業大手であるアルファ銀行との合併を発表した。この構想には、カタール投資庁による5億ユーロの転換社債引き受け及び12億5000万ユーロの増資が組み込まれており、実現すればカタール投資庁が主要株主となる一方、資産規模1500億ユーロ、預金規模800億ユーロを誇る南東欧最大級の銀行が誕生する見込みであった。しかしながらギリシャ債務危機の深刻化に伴い、想定を上回る国債減免(ヘアカット)による損失が見込まれたことから、2012年3月にこの合併構想は撤回された。同年、スイス・ルクセンブルクに本拠を置く親会社EFGグループは、監督当局の要請によりギリシャの銀行部門を分離することとなり、同年7月にユーロバンクはEFGグループの連結対象から外れ、株式はヤニス・ラツィス氏に売却された。これに伴い社名から「EFG」の文字が外れ、単に「ユーロバンク・エルガシアス」と称されるようになった。
2013年1月、ギリシャ国立銀行がユーロバンク・エルガシアスの買収を提案し、6万4,000人に上る株主及びギリシャ資本市場委員会もこれに同意する動きを見せたが、この統合構想は最終的に実現しなかった。同年、ユーロバンクは経営破綻したギリシャの銀行を再編する過程で設立された受け皿銀行であるニュー・ティーティー・ヘレニック・ポストバンク及びニュー・プロトン銀行を買収し、国内における市場地位を維持した。2014年には、著名な投資家ウィルバー・ロス氏及びプレム・ワトサ氏が率いるカナダの投資会社フェアファックス・フィナンシャルなど複数の投資家から総額15億5000万ドル相当の資本を調達している。しかし2015年1月には、預金流出の深刻化を受けてギリシャ中央銀行に緊急流動性支援(ELA)を要請するに至った。同年2月、ニコラオス・カラムジス氏が会長に、フォキオン・カラヴィアス氏が最高経営責任者にそれぞれ就任し、以後この経営体制のもとで再建が進められることとなった。同年7月には、子会社であるブルガリアのポストバンクが、同じくギリシャ系のアルファ銀行が保有していたブルガリア国内の店舗網を買収している。
2018年に入ると、ユーロバンクは資産構成の見直しをさらに進めた。同年4月にはルーマニア子会社バンクポストをルーマニア最大手のバンカ・トランシルバニアに売却し、同年11月には、フェアファックス・フィナンシャルが株式51%を保有する不動産投資会社グリヴァリア・プロパティーズを買収した。この取引を通じてフェアファックスのユーロバンクに対する出資比率は18%から32.9%へと大幅に引き上げられ、以後フェアファックスは同社の筆頭株主としての地位を確立することとなった。同じく2018年11月には、ピレウス銀行が保有していたブルガリアの銀行子会社も買収している。こうした一連の資本再編を経て、2019年から2020年にかけて実施されたハイヴダウンと呼ばれる組織再編により、ユーロバンクは銀行免許及び銀行業務を新設された100%子会社に移管し、自らは上場持株会社ユーロバンク・エルガシアス・サービシズ・アンド・ホールディングス(Eurobank Ergasias Services and Holdings S.A.)として銀行、証券、保険、不動産などの各事業を統括する体制へと移行した。この体制は2025年まで維持されることとなる。
持株会社体制への移行後も、ユーロバンクは長年の懸案であった不良債権比率の引き下げに注力した。2020年3月には不良債権比率を14%から9%へ引き下げる計画を公表し、大規模な不良債権証券化案件を実行に移した。もっとも2020年末の時点でも、グループ全体の不良債権残高は依然として57億ユーロに達していた。事業の地理的な再編も進み、2021年12月にはセルビア子会社がディレクトナ銀行と合併して「ユーロバンク・ディレクトナ」となったが、2023年3月にはこのセルビア事業を現地銀行AIKバンカに2億8000万ユーロで売却し、セルビア市場から実質的に撤退した。一方で2024年3月には、ギリシャの民放テレビ局ANT1及びマケドニア・ティーヴィーの株式2.3%を取得するなど、金融以外の分野への戦略的投資も行っている。
2024年から2025年にかけて、ユーロバンクはキプロスにおける事業基盤の抜本的な強化を進めた。2024年9月にキプロスのヘレニック銀行の株式26.1%を取得し、既存保有分と合わせて出資比率を55.9%へ引き上げた同社は、同年11月には68.81%まで持株比率を高め、完全子会社化に向けた買い付けを表明した。2025年2月には出資比率が93.47%に達し、残余株式を対象とする強制公開買付けを開始した。同年6月30日、ヘレニック銀行株式はキプロス証券取引所から上場廃止となり、同年9月1日にはヘレニック銀行が既存のキプロス子会社ユーロバンク・キプロスに吸収合併され、「ヘレニック銀行」というブランド名も姿を消した。この一連の取引は、キプロス経済史上最大級の対外投資の1つと評されている。
2025年12月12日、持株会社ユーロバンク・エルガシアス・サービシズ・アンド・ホールディングス(Eurobank Ergasias Services and Holdings S.A.)は、100%子会社であった銀行本体に吸収合併される形で、清算手続を経ずに解散した。この逆合併により、アテネ証券取引所に上場していた持株会社株式は上場廃止となり、これに代わって銀行本体である「ユーロバンク(Eurobank S.A.)」の株式が同取引所及びキプロス証券取引所に新たに上場された。この結果、2020年のハイヴダウンによって分離されていた持株会社と銀行本体の関係は再び1つの法人へと統合され、ユーロバンクという単一の銀行法人が、名実ともにグループの頂点に立つ体制へと回帰した。この組織再編を経てもなお、筆頭株主であるフェアファックス・フィナンシャルは統合後の会社においても3割超の出資比率を維持しており、経営の連続性が保たれている。2025年末時点でグループの総資産は1080億ユーロに達し、ギリシャ国内外の店舗数は562店舗、従業員数はおよそ1万2000人を数える。1924年のカラヴァシリス銀行、そして1990年のユーロメルチャント銀行という2つの源流に発し、幾多の合併と資本再編、そして国境を越えた事業展開、さらには2度にわたる組織形態の転換を経て築き上げられたユーロバンクは、名称と法人構造を変えながらも、ギリシャ及び東地中海地域における主要な金融機関としての地位を今日に至るまで保ち続けている。
第1版:2026-09-07.
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