サウジアラムコ.Saudi Arabian Oil Company.時価総額:1.56兆ドル[2025].
サウジアラムコは,サウジアラビア王国を代表する国営石油企業であり,世界最大級の原油生産能力と埋蔵量を有するエネルギー企業である.その設立の起源は,1933年5月29日にサウジアラビア政府とアメリカのカリフォルニア・アラビアン・スタンダード石油会社[Standard Oil of California:後のシェブロン]との間で締結された石油利権契約に遡る.この契約により,サウジアラビア東部州の広大な地域における石油探鉱権が付与され,同年中にカリフォルニア・アラビアン・スタンダード・オイル・カンパニー[CASOC]が設立された.これが後のサウジアラムコの母体となった.
初期の探鉱活動は困難を極め,1935年から1937年にかけて掘削された最初の数本の井戸は商業的な成果を上げなかった.しかし,1938年3月3日にダンマーム第7号井[Dammam No. 7]で日量1,585バレルの商業的油田が発見され,サウジアラビアにおける石油産業の本格的幕開けとなった.この発見によって,サウジアラビアは世界の石油地図にその名を刻むこととなった.
その後,サウジアラビアでは大型油田の発見が相次ぎ,アブカイク油田[1940年],ガワール油田[1948年発見・1951年操業開始],サファニヤ油田[1951年]などが順次開発された.特にガワール油田は,長さ約280キロメートル,幅約30キロメートルに及ぶ世界最大の陸上油田であり,サファニヤ油田は世界最大の海底油田である.これらの油田の開発により,サウジアラビアは急速に世界的な石油供給拠点として成長した.
1944年,CASOCは社名をアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー[Aramco]に変更した.1950年には,テキサコ,スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー[後のエクソン],ソコニー・バキューム[後のモービル]がAramcoに参画し,同社は米国の4社によるコンソーシアムとなった.
当初はアメリカ資本による民間企業であったが,1960年代後半から中東各国で石油資源の国有化が進む中,サウジアラビア政府も段階的な国有化を開始した.1972年に20%の株式取得について合意し,1973年には25%,1974年には60%,1976年には100%近くまで取得比率を引き上げ,1980年3月に完全な国有化を達成した.1988年11月8日には正式社名を「Saudi Arabian Oil Company[Saudi Aramco]」と改称し,サウジアラビア国家の中核的資産としての地位を確立した.
サウジアラムコの事業内容は極めて広範であり,原油・天然ガスの探鉱,生産,精製,輸送,販売,さらに石油化学に至るまで,エネルギーバリューチェーン全体を網羅している.上流部門においては,日量最大1,200万バレルを超える原油生産能力を有し,ガワール油田では日量約400万バレルを産出する.他にもアブカイク油田,クライス油田,サファニヤ油田,ズルフ油田,ベリ油田,マニファ油田など,世界的規模の油田を運営している.
天然ガス分野でも,非随伴ガスの探鉱・生産に力を入れており,ガス鉱物投資会社[GAMI]などを通じて年産1,130億立方メートル以上の生産能力を持つ.
中流・下流部門では,原油の精製・輸送・販売を担い,国内外で統合型事業を展開している.国内には,ラスタヌラ[56万バレル/日],ラービグ[40万],リヤド[12万],ヤンブー[24万],ジザーン[40万],ジュアイマ[30万]といった製油所を運営している.
海外では,韓国のS-Oil[株式63.4%保有]によりアジア市場の製品供給拠点を確保しており,日本では昭和シェル石油を経て出光興産と戦略的提携を構築している.米国ではシェルとの合弁会社Motivaを通じて,テキサス州ポートアーサーにおいて日量63万バレルの米国最大級製油所を運営している.中国では中国石化[Sinopec]や福建石化との合弁によって成長市場での事業展開を進めている.
石油化学分野では,2020年3月にサウジ・ベーシック・インダストリーズ・コーポレーション[SABIC]の株式70%を691億ドルで取得し,世界第4位の石油化学企業を傘下に収めた.これにより,原油から高付加価値の石油化学製品までの一貫生産体制が確立され,川下事業の強化が図られた.
サウジアラムコは約2,670億バレルの確認埋蔵量を保有しており,これは世界全体の約17%に相当する.また,平均生産コストは1バレルあたり約2.8ドルと非常に低く,これが同社の競争力の源泉となっている.この低コスト体制を背景に,長期契約とスポット市場を柔軟に使い分け,地域別に最適化された原油グレード[アジア向けアラビアンライト,欧州向けミディアム,北米向けヘビー]を供給している.
2019年12月11日には,サウジ証券取引所[タダウル]に1.5%の株式を上場し,約256億ドルを調達する世界最大規模のIPOを実現した.この上場は,ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する経済改革ビジョン「Vision 2030」の一環であり,石油依存からの脱却と経済の多角化を目指す国家戦略に位置づけられている.上場後も政府が約98.5%の株式を保有しており,同社の収益は国家財政収入の60〜70%を占める.
近年,同社はエネルギー転換時代への対応を急速に進めている.再生可能エネルギー分野では,太陽光・風力による電力供給体制の強化を目指し,2030年までに国内電力の50%を再生可能エネルギーで賄う方針を掲げている.2020年には世界初となる商用規模でのブルーアンモニアを生産し,日本向けに40トンを出荷した.
炭素回収・貯留[CCS]技術においては,ガワール油田にてCO₂圧入によるEOR[増進回収]を実施し,年間80万トンのCO₂を回収・貯留している.さらに,2030年までに年間900万トン規模のCO₂処理能力を目指した世界最大級のCCS拠点の建設が進められている.
デジタル化およびAIの活用にも注力しており,Fourth Industrial Revolution Center[4IRC]を設置して,IoT,ビッグデータ,AIによる生産・保全の最適化技術の開発を進めている.具体的には,設備点検用ドローン,故障予測モデル,探鉱効率化のための地層データ解析などが挙げられる.
環境分野でも,メタン排出削減,フレアガス最小化,生物多様性の保護など多面的なプログラムを進めており,2021年には2060年までのカーボンニュートラル達成を表明した.また,「循環型炭素経済[Circular Carbon Economy]」という枠組みの中で,持続可能なエネルギー供給の実現を目指している.
研究開発においては,世界各地に研究拠点[EXPEC Advanced Research Center,北京,ボストン,デトロイト,デルフト,アバディーンなど]を持ち,先進的な石油増進回収技術[EOR],非在来型資源の開発,環境対応技術,デジタル技術などの研究に重点を置いている.
このように,サウジアラムコは単なる産油企業の域を超え,総合エネルギー企業としての姿を確立している.世界のエネルギー需給における中核的存在であると同時に,エネルギー転換という時代の要請に応えるべく,持続可能で柔軟な事業構造の構築を推進している.
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