
キングダム・ホールディング・カンパニー(Kingdom Holding Co.,サウジアラビア)は、サウジアラビアを代表する投資持株会社であり、同国の王族で実業家でもあるアル=ワリード・ビン・タラール(Al Waleed bin Talal Al Saud)によって築かれた企業グループである。その歴史は、サウジアラビア経済が石油収入を背景として急速な近代化を遂げていた1970年代末に始まる。
アル=ワリードは1979年、「キングダム・エスタブリッシュメント・フォー・トレーディング・アンド・コントラクティング(Kingdom Establishment for Trading and Contracting)」という名称で私企業を設立した。リヤドを中心とする不動産取引や建設事業が主力であり、最初の取引で得た利益を不動産部門へ再投入することで急速に事業基盤を拡大した。この時期のサウジアラビアでは都市化と人口増加が進み、住宅や商業施設への需要が高まっていたため、不動産事業は大きな成長機会をもたらした。
1980年代に入ると同社はサウジアラビアの銀行部門へ参入し、1988年には経営不振に陥っていたユナイテッド・サウジ・コマーシャル・バンク(United Saudi Commercial Bank)の支配的株式を取得した。経営陣の刷新によって、同行はわずか1年以内にサウジ王国で最も収益性の高い商業銀行の一つへと生まれ変わった。
この成功によって同社は単なる不動産開発会社ではなく、企業再生や株式投資を通じて利益を創出する投資会社としての性格を強めた。また、「市場から過小評価されている優良資産を見出し、長期保有によって利益を得る」という投資哲学は、その後の同社の基本戦略となった。
キングダム・ホールディングの歴史において最も重要な転機の一つが、1991年の米国金融機関シティコープ(Citicorp)への投資である。
当時のシティコープは経営環境が悪化しており、アル=ワリードはその株式取得に合意した。この投資額は5億9,000万ドルに上り、銀行危機後の同行の回復に貢献した。
その後、米国経済の回復とともにシティコープの業績は改善し、投資価値は大きく上昇した。アル=ワリードはシティグループへの大きな賭けで国際的な名声を得た。同行がラテンアメリカの不良債権と米国不動産市場の崩壊に苦しんでいた1990年代のことである。この成功によってキングダム・ホールディングは世界の金融市場で一躍有名となり、中東の投資会社としては異例の国際的知名度を獲得した。
なお、1996年には社名をキングダム・ホールディング・カンパニーへと改称し、多角的な投資持株会社としての体制を正式に整えた。
1990年代後半から2000年代にかけて、キングダム・ホールディングは世界規模の投資会社へと成長。
投資対象は金融業界だけに留まらず、情報技術、通信、メディア、消費財、航空、不動産など多方面へ広がった。主な投資先にはAmazon、Apple、AOL/タイム・ワーナー、ユーロ・ディズニー、X(旧Twitter)などが含まれる。また、メディア分野では21世紀フォックス(旧ニューズ・コーポレーション)にも出資。
これらの投資は長期的な企業価値の成長を見込んだものであり、2000年代における世界的なデジタル化の波が同社の資産価値を大きく押し上げた。
キングダム・ホールディングのもう一つの特徴は、高級ホテル事業への積極的な投資である。
同社の保有する主要ホテル資産には、フォーシーズンズ・ホテルズ・アンド・リゾーツへの直接出資、フランスを拠点とするアコー(Accor)への株式保有、パリのジョルジュ・サンク(George V)、ロンドンのサヴォイ(Savoy)の所有が含まれる。
キングダム・ホールディング・カンパニーは1980年に投資管理会社として設立され、2007年にサウジ証券取引所(タダウル)に上場。
上場時にはサウジアラビア国内外から大きな注目を集めた。同社が保有する投資資産の多様性と国際性が高く評価されていたためである。上場によって資本調達力はさらに強化され、ガバナンス体制の整備も進み、同社は中東有数の上場投資会社としての地位を確立。
2010年代に入ると、世界経済は金融危機後の低成長や原油価格の変動など新たな課題に直面した。キングダム・ホールディングも投資戦略の見直しを進め、テクノロジー分野への投資比率を高めた。特に配車サービス企業Uberへの大型出資は国際的な注目を集めた。また、デジタル経済や新興技術への投資を通じて、従来の金融・不動産中心のポートフォリオからの多角化を推進した。
一方で、サウジアラビア国内では2017年の汚職摘発という重大な出来事があった。アル=ワリードはリヤドのリッツ・カールトンで一時拘束されたが、その後当局との合意によって釈放されている。
また、サウジアラビア国内では経済構造改革「ビジョン2030」が進められ、民間投資や観光産業の育成が重視されるようになった。同社もこうした国家戦略と歩調を合わせながら事業展開を進めていった。
2022年5月、サウジアラビアの政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)がキングダム・ホールディングの大株主となる。アル=ワリードはPIFとの間で、同社株式の16.87%にあたる6億2,500万株の売却契約に合意。1株あたり9.09サウジ・リヤルの相対取引で成立したこの案件の総額は56億8,000万サウジ・リヤル(約15億1,000万米ドル)に上った。
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