
カルコンプ・エレクトロニクス・タイランド(Cal-Comp Electronics [Thailand] Public Company Limited / CCET)は、タイを本拠地とする東南アジア最大級の電子機器受託製造サービス(EMS / OEM・ODM)企業。
台湾の大手電子機器グループである新金宝グループ(Kinpo Group)の中核企業。時価総額は約28億〜29億米ドル(2026)。
カルコンプ・エレクトロニクス・タイランドの起源は台湾の電子機器メーカーである金宝電子工業(Kinpo Electronics)を中核とする企業グループの海外生産展開に求めることができる。新金宝グループ自体は1973年に台湾で創業し、当初は電卓を中心とする電子機器の設計・製造を手掛け、OEMだけでなくODMにも取り組むことで事業を拡大してきた企業である。CCETの成立は、この台湾で蓄積された電子機器の設計・製造能力を、成長する東南アジアの生産拠点へ展開する流れの中に位置付けられる。
CCETは1989年12月4日に設立された。当初から事業目的は電子機器のEMSであり、タイで生産した製品を世界市場へ輸出するという現在につながる事業モデルが出発点から明確であった。社史資料によれば、1989年にはタイ法人の設立とともにファクシミリ機器の製造を開始し、1990年にはタイ工場が稼働している。したがって、CCETの歴史は単にタイ国内向けの電子機器メーカーとして始まったものではなく、台湾系電子産業の国際的な生産分業の一環として形成されたものである。
1990年代のCCETにとって重要であったのは、単一製品の大量生産から複数の電子機器分野へ進出したことである。ファクシミリ機器に加え、電卓、プリンター、通信機器などの生産領域を広げ、海外ブランド向けの受託製造能力を蓄積していった。特に1990年代後半には製品開発力と生産能力の双方を強化し、1998年にはタイで4番目となる工場を設立するとともに、デスクトッププリンターの生産を開始し、タイに研究開発センターも設置した。1999年には5番目の工場を設立し、ケーブルモデムの生産も開始している。
この時期に形成された生産基盤は、後年のCCETの特徴を決定することになる。現在の主要生産拠点の一つであるペッチャブリーの工場群は1998年から稼働しており、もう一つの主要拠点であるマハチャイは1989年から操業している。つまり、現在の大規模なタイ生産ネットワークは、1989年の創業時に形成された拠点と、1990年代後半の拡張によって形作られたものである。2024年時点の分析では、拡張前でもタイ国内の工場はペッチャブリーとマハチャイに集中し、両地域がCCETの製造基盤の中心となっていた。
事業規模の拡大を背景として、CCETは2001年1月3日にタイ証券取引所へ上場した。銘柄コードはCCETであり、IPO価格は額面10バーツ時代の30バーツであった。その後、2005年4月に額面を10バーツから1バーツへ変更している。上場によってCCETはタイを代表する電子機器製造企業の一つとして資本市場との結び付きを強めることになった。
上場時期は、CCETが単なるタイ国内の工場会社から、国際的なEMS企業へ転換していく重要な段階である。2001年前後にはタイ国内の工場数も増加し、2001年には第6工場が設立された。2002年にはフォトプリンターやADSLモデム、2004年には車載GPS、携帯型DVDプレーヤー、コードレスレーザーマウスなどへ生産品目を拡大し、2005年にはスマートフォンの製造も開始した。2006年には外付けHDDストレージの生産にも進出している。これはCCETが「プリンター工場」という単一用途型の企業ではなく、顧客の製品世代交代に合わせて生産能力を転用・拡張するEMS企業へ成長したことを示している。
CCETの国際化はタイから製品を輸出するだけにとどまらなかった。2003年には台湾証券取引所で台湾預託証券(TDR:Taiwan Depositary Receipt)を上場。これによりCCETは、事業活動の中心をタイに置きながら、タイと台湾という2つの資本市場を利用する企業となった。現在も遠東国際商業銀行(Far Eastern International Bank、台)がTDRのカストディアンとして大株主欄に現れるのは、この時代に形成された資本市場上の構造を反映したものである。
2000年代には中国にも生産・開発拠点を広げ、CCETを中心とするCal-Compの企業ネットワークはタイ、中国、台湾などを結ぶものとなった。こうした地域分散は、電子機器メーカーが製品ごとに最適な生産地を組み合わせるEMSモデルと相性がよく、CCETはタイを主要生産基地としながら、中国などにも製造・部品・開発機能を配置する体制を整えていった。後に中国での生産環境や地政学的リスクが変化した際、タイの生産能力が改めて評価される背景には、この長期にわたって形成された国際的な生産ネットワークがある。
2000年代後半から2010年代にかけて、CCETの事業構造を大きく変えたのがデータストレージ関連製品である。外付けHDD、HDD用PCBA、記憶装置関連の組立などへ事業領域を広げ、Western DigitalやSeagateなど世界的なストレージ企業との取引関係を構築した。CCETの現在の製品構成にHDD用PCBA、外付けHDD、NAS、SSD、ストレージサーバー向けPCBAなどが含まれるのは、この長年にわたるストレージ産業との関係の蓄積によるものである。
ストレージ分野への進出は、CCETのEMS企業としての性格を一段と強めた。完成品だけを製造するのではなく、プリント基板実装(PCBA)や部品組立など、製品のサプライチェーンの複数工程を担うことができるようになったからである。こうした能力は、その後HDDからSSDへとストレージ技術の中心が移行する際にも重要となった。2020年代に入ってからCCETがSSD関連製品やSSD用PCBAの生産能力を拡大しているのは、過去に蓄積したストレージ製造技術を新しい市場へ転換したものと見ることができる。
2010年代には、CCETを取り巻くKinpo Groupの事業領域そのものも大きく変化した。2012年にはフィリピンで外付けHDDなどのコンシューマーエレクトロニクス生産を開始し、2013年には3Dプリンター事業へ進出、2014年にはフィリピンで電卓生産拠点を設立するなど、従来の電卓・プリンター・電子機器からストレージ、3Dプリンター、スマート機器などへ領域を広げた。CCETはこのグループのタイにおける中核的な大量生産拠点として位置付けられるようになった。
この時代のCCETは、顧客企業のブランドを前面に出して製品を製造するEMSというビジネスモデルを一段と高度化させた。インクジェットプリンター、レーザープリンター、複合機、HDD関連製品、通信機器、セットトップボックス、デジタルカメラ関連部品など、複数の産業分野を横断する生産技術を持つことによって、特定製品の需要変動に対する耐性を高めていったのである。現在のCCETが「総合的な製造サービス企業」として位置付けられる背景には、この製品分散の歴史がある。
2020年には新型コロナウイルス感染症の世界的流行がCCETにも大きな影響を及ぼした。中国やマレーシアのサプライチェーンが一時的に停止したことなどから、2020年第1四半期の売上高は前年同期比18.17%減の6億9,181万ドルとなった。一方、CCETは2020年通年では約33億ドルの売上高を確保しており、世界的な物流停滞と生産制約の中でも事業を維持した。会社側はこの危機を契機として組織・資産構成を見直し、低回転在庫への引当などを進める一方、新製品向けの設備拡張も継続した。
この経験は、後のCCETの事業戦略を考える上でも重要である。EMS企業にとって生産能力そのものだけでなく、部品調達、物流、顧客の生産移管に対応できる地理的分散が競争力となることが、コロナ禍によって明確になったからである。CCETはその後、タイを中心とする生産能力をさらに拡大し、中国などからの生産移管を受け入れられる体制を整えていった。
2020年代に入ると、CCETの事業環境は再び大きく変化した。HDD市場では2022年以降に出荷数量が減少し、プリンター市場も長期的な成熟・縮小傾向に直面した一方、SSD、データセンター関連ストレージ、EV充電器、スマートウェアラブル機器、IoT関連機器など新しい需要が生まれた。2023年にはHDD市場が低迷する中でSSDへの移行が進み、CCETにとっても従来型製品から高付加価値製品へ生産能力を移すことが重要な経営課題となった。
この流れの中で、CCETはタイ国内への大型設備投資を進めた。2024年から2025年にかけて、ペッチャブリーで3工場、マハチャイで1工場を新設・拡張し、ペッチャブリーの床面積は拡張前の約25万8,690平方メートルから約50万4170平方メートルへ、マハチャイは約6万2640平方メートルから約9万5600平方メートルへ拡大する計画となった。新しい設備ではレーザープリンター、EV充電器、スマートウェアラブル機器、SSD関連製品などが想定されており、CCETが成熟したプリンター・HDD中心の企業から、より多様な電子機器の製造プラットフォームへ転換する過程が明確に表れている。
CCETの歴史を理解する上では、金宝電子工業(Kinpo Electronics)との資本関係の変化も重要である。金宝電子工業(Kinpo Electronics)は長年CCETと深い関係を持っていたが、2023年末にはCCET株式の49.99%を保有する最大株主となった。Kinpo側の資料でも、CCETに対する持分は2023年9月末の46.52%から2024年9月末には49.99%となっていることが確認できる。2023年の増資などを経て、CCETはKinpo Groupの連結対象企業としての位置付けを一段と強めた。
2024年末時点でも金宝電子工業(Kinpo Electronics)の持株比率は49.99%であり、仁宝電脳工業(Compal Electronics, Inc.、台)が14.87%、台湾預託証券(TDR:Taiwan Depositary Receipt)のカストディアンである遠東国際商業銀行(Far Eastern International Bank、台)が14.13%を保有していた。2026年3月末時点では金宝電子工業(Kinpo Electronics)が522万395万6415株、49.99%を保有しており、現在のCCETは実質的に金宝グループの中核的な上場製造会社の一つと位置付けられる。もっとも、CCETはタイ証券取引所に上場する独立した公開会社であり、タイ市場における株主・取締役・企業統治の枠組みを維持している。
CCETは、コンピューター周辺機器、ストレージ、通信機器、スマート家電などを幅広く製造するEMS企業である。主要製品にはインクジェット・レーザープリンター、複合機、HDD用PCBA、外付けHDD、NAS、USBメモリー、ストレージサーバー用PCBA、SSD、セットトップボックス、Bluetoothヘッドセット、スマートTV、スマートミラー、スマートPOSなどが含まれる。顧客にはWestern Digital、Seagate、Advance Digital Broadcast、Technicolor、Pace、Hewlett Packard、Panasonicなど世界的なブランド企業が含まれており、製品の大部分は世界市場へ輸出されている。
また、CCETの競争力は単純な低コスト生産だけにあるわけではない。6シグマ、総合品質管理(TQM)、高度な生産計画、仮想工場システム、品質検査、歩留まり分析、サプライチェーン管理、自動化などを組み合わせ、顧客の製品開発から量産までを支援する能力を形成している。これは1970年代に台湾で始まった電卓のODMから、1989年のタイ進出、1990年代の工場拡張、2000年代のプリンター・通信・ストレージへの多角化、そして2020年代のSSD・EV充電器・スマート機器への展開へと続く、50年以上にわたる製造技術の蓄積の延長線上にある。
第1版:2026-09-04.
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