
韓進KAL[ハンジンKAL,Hanjin Kal Corp.,韓].
KRX:180640
時価総額[2025]:約15億米ドル.
韓進KALの歴史は, 戦後韓国における物流産業の形成と航空事業の民営化, さらに財閥型企業集団の発展と再編の過程を凝縮したものである.その源流は, 1945年11月1日に趙重勲[チョ・チュンフン, 1920年3月30日生]が仁川で創業した「韓進商事」にさかのぼる.趙重勲は仁川の商家に生まれ, 慶尚南道鎮海の海員養成所を卒業後, 日本で二等航海士として働き, 1942年に京城府でトラック修理工場を始めたが, 戦時体制で軍需体制に組み込まれることになり, 補償金をもらって会社を整理した.その補償金を元手に, 戦後トラック1台で作った会社が韓進商事である.
当初はトラック運送業から始め, 5年でトラック30台と貨物船10隻を抱える運送会社に育ったが, 朝鮮戦争で車両は徴用されて従業員も離散し, 1953年にようやく仁川で事業を再開した.1956年11月に在韓米軍の第8軍から7万ドルの軍需物資輸送業務を請け負ったことを皮切りに米軍との関係を強め, 急激に成長を開始し, 1960年には米軍と220万ドルの契約を結び500台のトラックを運行させる大企業になった.1960年に李承晩政権が四月革命で倒れ新政権が発足し, 大韓国民航空社[KNA]が独占していた国内航空事業に新規業者の参入を認める方針に転じると, 趙重勲は「韓国航空」[Air Korea]を設立してエアタクシー事業に参入し, 翌1961年春から国内定期便を開設してKNAとの間で激しい競争を繰り広げた.しかし, 過当競争で韓国航空はわずか数か月で運休し, 最終的に事業を畳んだ.そのかたわら, 1961年8月に在韓米軍の通勤バス20台を購入し, ソウル・仁川間で韓国初の「座席バス」事業を開始した.これが韓進高速の始まりである.
1966年3月にはアメリカ国防総省との間で, ベトナムで戦うアメリカ軍の陸・海・空・海兵隊すべてに対して物資輸送を請け負う契約を結んだ.戦地であるベトナム国内での危険な輸送で韓進は急成長を遂げ, 1971年までの5年間で稼いだ外貨は合計1億3000万ドルに達した.
1969年, 韓進は朴正煕大統領からの打診で不振に陥っていた国営航空会社・大韓航空公社の民営化を承諾し, これを大韓航空として傘下に収めた.韓進は物流企業から航空会社を中核とする企業集団へと大きく性格を転換した.同じく1969年の11月, 韓進はアメリカの海運会社シーランド社と, シーランドのコンテナ船のためのコンテナターミナルを運営する契約を交わし, それから1年もたたない1970年9月, 釜山港にコンテナ埠頭を開業させてコンテナ荷役業務に参入した.1977年には韓進海運を設立して自ら海運業にも参入した.
1970年代後半には中東に進出し, クウェートとの間にシュワイク港運営に関する契約を交わし[1977年9月], 次いでサウジアラビアとの間でダンマン港[1979年3月], ジッダ港[1980年5月]に関する契約を交わした.1988年には韓国のフラッグキャリアだった大韓海運公社を前身に持つ大韓商船を韓進海運に合併した.1989年には釜山の影島区にあった国営の韓国造船公社[その前身は1937年に建設された朝鮮重工業]を買収して韓進重工業とした.その他, 1968年に仁荷大学校を, 1979年に国立韓国航空大学校を買収し, 仁荷大には工学や物流などの学部を設けている.
1990年5月, 韓進は大手物流企業・韓国便輸送[Korea Freight Transport Company]を買収してトラック輸送と倉庫業での業容を拡大した.1992年6月にはハンジン・エクスプレスを設立して宅配便の扱いも開始している.1970年代から1980年代にかけて, 大韓航空は長距離国際線の開設, 貨物輸送事業の強化, 機材の大型化と近代化を通じて, アジア有数のフルサービス航空会社へと成長した.同時に, 韓進交通をはじめ, 倉庫業, 港湾関連事業, 観光, 不動産などの分野にも事業を広げ, 航空と陸運を軸とする総合物流体制を構築していった.
1990年代後半から2000年代にかけて, 韓進グループはグローバル化と企業統治の課題に直面した.1997年のアジア通貨危機は韓国の財閥企業に深刻な影響を与え, 韓進グループも財務体質の改善と事業再編を迫られた.創業者の趙重勲は2002年11月17日に死去し, 経営は長男の趙亮鎬[チョ・ヤンホ]に引き継がれ, オーナー一族による経営体制が維持された.創業者の死後, 兄弟間での事業分離が進み, 長男の趙亮鎬は韓進・大韓航空系統を経営することとなった.
2000年代には, 韓進グループは循環出資構造を持ち, 株式会社韓進→大韓航空→定石企業→株式会社韓進に戻る支配構造でオーナー一族がグループを支配していた.この時期, 大韓航空は航空アライアンス「スカイチーム」への加盟や航空貨物事業の拡大によって国際競争力を高めた一方, オーナー一族による支配構造の不透明さやガバナンスの弱さが次第に問題視されるようになった.21世紀に入り, 韓進グループは大韓航空を世界各国に就航させるほか, アジアやアメリカなど各地の港湾を運営していた.物流と航空にグループの資源を集中するため, 2005年には韓進重工業が独占規制公正取引法の影響で別グループとして独立し, 2006年4月8日には高速バス事業を行っていた韓進高速を競合企業である東洋高速に売却している.
2013年9月1日, 韓進KALは大韓航空を分割して設立した, 韓進グループの持株会社として正式に発足した.これは循環出資構造を持株会社に変える政府の基調と, 経営権防御に非常に脆弱な構造であるため, 韓国の公正取引法制への対応とガバナンスの明確化を目的としたものである.この制度的転換によって, 韓進KALは純粋持株会社として大韓航空をはじめとする主要子会社を傘下に置き, 事業執行と資本管理を分離する構造を採用し, 名実ともにグループの頂点に立つ統括会社となった.社名に含まれる「KAL」は Korean Air Lines の略称であり, 同社が航空事業を核とするグループ統括会社であることを端的に示している.
しかし2010年代に入り, 韓進グループ創業家一族が, 社会的に優越的な地位を利用した目下の者や社会に対する横暴, いわゆる「甲乙問題」や「甲の横暴」と呼ばれるカプチル[甲質]問題をたびたび引き起こし, 韓国社会で大きな問題となった.2014年にはグループ代表の趙亮鎬の長女の趙顕娥[チョ・ヒョナ]が大韓航空ナッツ・リターン事件を, 2018年には次女の趙顕ミン[チョ・ヒョンミン]が会議中に激怒し水をかけ罵声を浴びせるというパワーハラスメント事件を, 母親であり会長夫人の李明姫が工事現場の作業員に暴行を働くなどの事件を, さらには創業家の女性達が関税逃れのための密輸疑惑事件なども引き起こしたため, 韓国社会で韓進グループに対する信頼性が大きく失墜することになった.
2019年4月7日, 趙亮鎬会長が急逝した.その後, 長男の趙源泰[チョ・ウォンテ]が4月24日付で韓進KALの代表取締役会長に選任され, 韓進グループの3代目総帥として就任した.しかし, 経営権を巡っては姉の趙顕娥との対立が表面化し, 家族間および株主間での緊張が続いている.これらの問題は, 韓国財閥に特有の家族支配構造の限界を象徴する事例として広く注目された.
この時期, 韓進グループは重大な危機にも見舞われた.海運会社の韓進海運もグループ内の主力企業で, ドイツのブレーメンに本社を置く海運会社セネター・ラインズの株式の半数以上を所有して傘下に収めており, 韓進海運のコンテナ船部門とあわせたハンジン・セネターは世界第8位の海上コンテナ運送会社となっていた.しかし韓進海運は2008年の世界金融危機以後, 資産の切り売りで流動性危機が深刻になり, 2010年代前半には巨額の営業損失を出し続けたため, 韓進グループが巨額の資金を支援したが, 海運業不況の長期化, 好況期に設定した高い傭船料, 増加する船舶金融費用などで危機が深刻化し, 2016年にはついに破綻した.世界有数の海運企業であった韓進海運は2017年に破産宣告を受けて清算され, グループにとって大きな打撃となった.
2020年代に入ると, 新型コロナウイルス感染症の世界的流行が航空業界を直撃し, 韓進KALも深刻な影響を受けた.その一方で, 2020年11月に大韓航空によるアシアナ航空の買収が発表され, 韓国航空産業の大規模な再編が始まった.この買収計画は各国規制当局の承認を得るために長期にわたる調整を必要とした.2024年12月に米国司法省から最終承認が下され, 大韓航空がアシアナ航空の株式63.88%を取得して子会社化が完了した.今後2年間の準備期間を経て, 両社は完全に統合され, 大韓航空ブランドに一本化される予定である.
現在の韓進KALは, 航空会社と陸運会社を傘下に持つ持株会社として, 物流を中核に据えた事業構造を維持しつつ, 財務管理, 資本政策, 企業統治の再構築を担う存在となっている.大韓航空とアシアナ航空の統合により, 世界第10位圏の規模を持つメガキャリアが誕生し, 韓国航空産業における韓進KALの中心的役割はさらに強化されることとなった.
| ( ! ) Warning: Undefined variable $link_abc in /var/www/html/history/econ_his.php on line 152 | ||||
|---|---|---|---|---|
| Call Stack | ||||
| # | Time | Memory | Function | Location |
| 1 | 0.0000 | 357952 | {main}( ) | .../econ_his.php:0 |