スパー

スパー(The SPAR Group Ltd.)は、南アフリカおよび南部アフリカ最大級の店舗数を誇る大手スーパーマーケットチェーン。

スパーの起源と南アフリカへの進出

スパー(SPAR)の起源は南アフリカではなく、1932年にオランダで誕生したボランタリー・チェーンにある。南ホラント州ゼグワールト(現ゾーテルメール)の卸売業者アドリアン・ファン・ベルが16人の小売店主と組織した「DE SPAR」がその原型であり、卸売業者と独立小売店が共同で仕入れや販売促進などの機能を共有しながら、個々の店舗の独立性を維持するという仕組みであった。ファン・ベルは祖父の代から続く食品卸売業を父から引き継ぎ、深刻な経済危機のさなかにアメリカのボランタリー・チェーンの事例に着想を得てこの事業モデルを考案した。SPARという名称はオランダ語で「トウヒ(エゾマツ属の常緑針葉樹)」を意味すると同時に、「共同で努力すれば全員が継続的に利益を得る」という理念を表す標語(Door Eendrachtig Samenwerken Profiteren Allen Regelmatig)の頭文字でもあった。スパー・インターナショナルの本部が置かれたアムステルダムはあくまで1953年の国際組織設立以降の拠点であり、発祥の地ではない。この協同的な小売モデルこそが、後の南アフリカ事業を理解するうえで重要な出発点である。

南アフリカでは1962年にSPAR Internationalからブランド使用権が与えられ、翌1963年、ケープタウンでSPAR South Africaが正式に事業を開始した。南アフリカはヨーロッパ以外で最初にSPARのネットワークへ参加した国であり、当初は8社の卸売業者が約500の小規模小売店を支援する形でスタートした。ここで重要なのは、SPARが自ら大量の店舗を所有して全国的なチェーンを形成したのではなく、既存の独立小売店を卸売・物流・ブランド・マーケティングの面から支援する組織として発展した点である。これは後に同社の最大の競争力となる「ボランタリー・トレーディング・モデル」の南アフリカにおける定着を意味している。

南アフリカでの事業基盤の形成

1960年代後半から1970年代にかけて、SPARは南アフリカの小売市場に適応しながら事業基盤を拡大した。1970年には店舗をSPAR FoodmarketsとSPAR Foodlinersに分け、セルフサービス方式やサービス部門、店内ベーカリーなどを導入した。これは単にSPARという看板を小売店に掲げる段階から、商品の品揃え、店舗運営、物流、販売促進までを一体的に支援する卸売組織へと進化したことを意味する。1975年には農村部や低所得地域を主な対象とするSaveMorブランドを開始し、都市部の一般的なスーパーマーケットだけでは取り込めない市場にも進出した。1979年にはクワズール・ナタール州に配送センターを設置し、店舗網の拡大を支える物流インフラの整備も進めた。

1970年代から1980年代にかけての発展で特に重要なのは、SPARが小売店舗そのものよりも、独立小売店を支える卸売・物流ネットワークの構築に力を入れたことである。大型チェーンとの競争では、単独の商店は仕入れ量、物流効率、広告宣伝、商品開発などの面で不利になりやすい。SPARは多数の独立店舗を一つのネットワークとして結びつけることで、個々の店舗が独立性を維持しながら大規模チェーンに近い購買力やブランド力を利用できる仕組みを作ったのである。この構造は、後のSPAR Groupの企業形態を規定する基本原理となった。

企業再編とSPAR Groupへの転換

南アフリカのSPARは、その後、単純な加盟店組織から大規模な企業グループへと変貌していった。1980年代には卸売業者の統合や買収が進み、1984年には複数の卸売業者を統合したBrown Groupが形成された。この過程では南アフリカの食品企業Tiger Oatsが重要な役割を果たし、1988年にはSPAR South AfricaがTiger Oatsの完全子会社となった。1991年にはBrown GroupがThe SPAR Group Limitedへと社名を変更したが、この時点ではなお同社の傘下にあり、独立した上場企業ではなかった。SPARがTiger Oats(後のTiger Brands)から切り離されて単独で上場企業となったのは2004年のことである。

1990年代には、SPARは店舗フォーマットを多様化することで、大型スーパーマーケットから都市型小型店まで幅広い需要に対応するようになった。1990年には都市中心部や人通りの多い場所で利便性を重視するKWIKSPARを導入し、1993年には東ケープ州に配送センターを設置した。さらに1998年には大型スーパーマーケット業態であるSUPERSPARを開始した。これはShopriteなどの大規模チェーンとの競争を意識したものであり、SPARが独立小売店向けの卸売組織にとどまらず、異なる商圏と店舗規模をカバーする総合的な小売支援グループへ変化したことを示している。

業態の多角化と上場

2000年代に入ると、SPARは食品スーパーだけに依存しない事業構造を形成していった。2000年には酒類専門店のtops! at SPARを導入し、2011年には薬局を組み込んだPharmacy at SPAR、ガソリンスタンド併設型の小型店舗であるSPAR Expressなどへ展開した。また1985年に開始した建築資材関連事業Build itも成長し、食品以外の生活関連需要を取り込む重要な事業となった。これらの事業は、独立小売店を中心とするSPARのネットワークに異なる商品カテゴリーを組み合わせ、店舗当たりの顧客接点と売上機会を増やす戦略として発展したものである。

企業としての転機となったのが2004年10月18日のヨハネスブルク証券取引所(JSE)への上場。これによってSPAR GroupはTiger Brandsの傘下から切り離され、南アフリカの主要上場企業の一つとして独立した資本市場プレーヤーとなった。従来の卸売・物流を中心とする事業から、資本市場を利用して国内外への投資と事業拡大を進める企業グループへと性格を変えていった。2009年には南アフリカ南部地域の物流拠点を拡充し、2013年の50周年時点では加盟小売店数が1963年の約500店から1,800店規模へと増加していた。これは店舗を自社所有する典型的なチェーンとは異なる方法で、独立小売店のネットワークを大規模化した結果。

国際化への転換

SPAR Groupの歴史における大きな転換点は2010年代の国際展開である。2014年8月、同社はアイルランドおよび英国南西部で事業を展開するBWG Groupの80%の株式を5,500万ユーロで取得した。BWGは食品卸売と独立小売店への供給を基盤とする企業であり、SPAR South Africaが長年培ってきたボランタリー・チェーンの事業モデルとの親和性が高かった。残る20%の株式は創業経営陣が保有し続けていたが、2021年にSPAR South Africaが完全子会社化を実現した。アイルランド・英国南西部事業はその後、南アフリカに次ぐ重要な収益基盤となった。

2016年にはSPAR SwitzerlandことSPAR Holdingの60%を取得し、2021年には残る40%も取得して完全子会社化した。2019年にはポーランド市場にも進出し、経営難に陥っていた現地の高級スーパーマーケットチェーン、ピオトル・イ・パヴェウの株式の大半をわずか1ユーロで取得した。2017年にはスリランカでCeylon Biscuits Limitedとの合弁事業も開始しており、SPAR Groupは南部アフリカを中心とした企業から、アフリカ、欧州、アジアに事業基盤を持つ国際的な卸売・物流グループへと拡大したのである。ただし、この国際化は各国で同じ店舗を大量に所有するという方式ではなく、それぞれの地域で独立小売店を支援する卸売・物流プラットフォームとしてSPARブランドを展開する方式であった。

欧州事業の縮小と中核事業への回帰

国際展開は必ずしもすべて成功したわけではなかった。SPAR Groupは2023年9月、一度も黒字化できなかったポーランド事業について売却する方針を決定した。2024年9月には、ポーランドの現地小売業者スペツャウに約200店舗、配送センター3拠点、製造施設1拠点を4,000万ズウォティ(約1億8,500万ランド)で売却する契約を締結。売却に際してはポーランド事業の債務を清算するための再資本注入が別途およそ27億ランド必要となり、2019年の参入以来の実質的な損失は40億ランドを超えた。この売却は2025年1月31日に最終的に完了。

さらに欧州事業の見直しはポーランドにとどまらなかった。2025年に入り、SPAR Groupは欧州資産の戦略的レビューを実施し、スイス事業についても全株式を売却する方針を決定した。同年の中間決算ではSPARスイスは「売却目的保有資産」に分類されて約30億ランドの減損が計上され、英国南西部事業(Appleby Westward)についても非継続事業に区分された。SPAR GroupはスイスのTannenwald Holdingとの間でSPARスイスの全株式を売却する契約を締結し、対価は評価額ベースで約4,650万スイスフラン。この結果、SPAR Groupの国際事業は南アフリカを中核としつつ、アイルランド・英国南西部のBWG Groupにほぼ絞り込まれる形となった。したがって、2014年以降の国際化は単純な店舗数拡大としてではなく、SPARが南アフリカで確立した「独立小売店+卸売+物流+ブランド」というモデルを海外市場へ移植し、その成果を厳しく選別する過程であったと捉えるべきである。

SPAR Groupの現在と社史上の意味

現在のSPAR Groupは、一般にイメージされる「スーパーマーケットのチェーン企業」とはかなり異なる企業である。中核事業は卸売、倉庫、物流、商品調達、マーケティングなどを組み合わせ、独立して店舗を所有・運営する小売事業者を支援することである。店舗側は地域の需要に合わせた経営の自由度を維持しながら、SPARのブランド、調達力、物流網、プライベートブランド、販促機能を利用できる。この仕組みによって、大規模チェーンのスケールメリットと、個人・地域企業による独立小売の柔軟性を両立させることがSPARの基本的な競争戦略となっている。ポーランド・スイス両事業の損失計上やIT基幹システム導入の混乱を背景に株価は大きく下落しており、2026年半ばの時価総額はおよそ5億米ドル前後まで縮小している。2004年の上場時は数百万米ドル規模、2020年前後のアイルランド事業完全子会社化を追い風とした局面では20億米ドルに迫る水準まで拡大したことを踏まえると、この間の下げ幅の大きさが際立つ。

この意味でSPAR Groupの拡大は、単なる食品スーパーの店舗拡大ではなく、卸売業者と独立小売業者の協業モデルを企業規模の拡大に耐えうる物流・ブランド・データ・調達の仕組みへ発展させた歴史と評価できる。1932年にオランダで生まれたボランタリー・チェーンの思想が、1963年に南アフリカへ移植され、南アフリカの卸売業者の統合を通じて現在のSPAR Groupへ発展し、2004年の上場を経て国際企業へ成長した。そして、2020年代には、ポーランドやスイスといった海外拠点からの撤退を経験しながら、独立小売を支える卸売・物流プラットフォームという本来の強みへ回帰する方向が鮮明になっている。SPARの長い歴史を貫いているのは店舗数の拡大そのものではなく、独立した小売事業者を一つの経済的ネットワークとして結びつける仕組みといえよう。

第1版:2026-08-24.



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