江戸時代以前にも「首相」という語は漢籍や歴史書の中で散発的に用いられていた。当時は「国政を統括する最高位の大臣」という一般名詞であり、特定の官職名ではなかった。例えば、中国の宰相や丞相を「首相」と表現する例が見られる。
日本で首相が現在の意味を持つようになったのは、1885(明治18)年の内閣制度創設以降である。それまでの太政官制では政府の長は太政大臣であったが、1885年12月22日に内閣制度が発足し、初代内閣総理大臣に伊藤博文が就任した。この頃から新聞各紙が内閣総理大臣を簡略化して首相と呼ぶようになった。
もっとも、当初は「総理大臣」「内閣総理」「首相」が混在しており、呼称は統一されていなかった。1880年代から1890年代の新聞では「伊藤総理」「伊藤首相」「伊藤内閣総理大臣」などの表現が並存している。当時の新聞は紙面が限られていたため、短い「首相」という語が好まれた。
1890(明治23)年の大日本帝国憲法施行後、議会政治が本格化すると、首相という呼称は急速に一般社会へ浸透した。特に政党政治が発展した大正時代には、新聞・雑誌でほぼ日常的に使用されるようになり、「首相官邸」「首相演説」といった表現も定着した。
戦後の1947年(昭和22年)に日本国憲法が施行されても、正式な官職名は引き続き「内閣総理大臣」であり、「首相」は法令上の名称には採用されなかった。しかし、報道機関や国民の間では「首相」が一般的な呼称として定着し、現在では新聞の見出しやテレビ報道では首相が、公文書や法令では内閣総理大臣が用いられるという使い分けが確立している。
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