

旧新小岩駅南口駅舎
2023年10月1日に地上6階建のJR新小岩南口ビルが開業し,今はこの風景はない.
新小岩駅は1928[昭和3]年7月10日に旅客駅として開業したが, その前身は1926[大正15]年2月1日に設置された新小岩信号所である.同年7月1日には新小岩操車場となり, 1928年に駅へと昇格した.以降, 総武本線の1972[昭和47]年7月15日の複々線化により快速線の運用が開始されるなど, 線路整備に伴い駅構造と周辺市街地は段階的に変貌してきた.開業当初は南口のみが設置され, 北口は1944[昭和19]年に周辺企業への通勤の便を考慮して設置された.開業以来, 駅は南北に分断された地域を結ぶ重要な接点であり, 南口側はルミエール商店街[全長約420メートル, 約140店舗]や生活商業地と直結する商業集積を形成してきた.これらの歴史的・機能的条件が, 旧駅舎の位置づけを決定づけていた.
旧・南口駅舎は, 1972[昭和47]年の複々線化の時期に建設されたと推定される駅舎であり, その外観・内部は昭和後期の標準的な地方近郊駅舎の様相を呈していた.改札口・コンコースは南口側に集中し, 駅舎内外には小規模な売店や改札外の商業テナントが入居していた.南口駅前にはかつてスーパーマーケットなどの商業施設が立地し, 駅舎は日常的な買物動線を支える生活インフラの役割を担っていた.旧駅舎は周辺道路や歩行空間との整合, バリアフリー対応という点で限界を抱えており, 歩行者の南北往来は当初駅外を経由する必要があったことから, 駅機能の改善が長年の課題となっていた.
2000年代後半から2010年代にかけて, 駅周辺の交通結節やバリアフリー化に対応する都市的要請が高まり, 南北を結ぶ自由通路整備やエレベーター・エスカレーターの設置が段階的に進められた.2011年3月5日には北口連絡通路「スカイデッキたつみ」と東北広場の使用が開始され, 2013年12月21日には南北自由通路整備工事の着工式が行われた.2017年10月14日には改札階と1・2番線ホームを連絡するエレベーターが使用開始, 2018年2月24日には改札階と3・4番線ホームを連絡するエレベーターが使用開始となった.そして2018年6月24日には南北自由通路の供用が開始され, これにより北口と南口の改札が統合されるなど, 駅利用者の回遊性とバリアフリー性が大幅に改善された.こうした改良は, 同時に旧駅舎を含む南口周辺の再開発を可能にする前提条件でもあった.
旧駅舎は設備の老朽化とまちづくり上の課題を抱えていたため, JR東日本は南口旧駅舎跡地を利用した駅ビル整備計画を策定した.建設工事は2021年頃に着手され, 旧駅舎は解体された.新たに地上6階建・延床約8,000平方メートル規模の複合施設[JR新小岩南口ビル]が建設され, 1・2階には商業施設「シャポー新小岩」[スターバックス, 成城石井など約10テナント], 3~5階にはスポーツ施設「ジェクサー・フィットネス&スパ新小岩」, 6階には葛飾区の行政サービス施設「えきにこわ新小岩」が配置された.これにより, 従来の小規模な南口駅舎が果たしてきた生活利便機能を大幅に拡充するとともに, 災害時の帰宅困難者受け入れなどの防災機能も新たに組み込まれた.竣工は2023年10月1日である.
旧駅舎の空間的特徴として注目すべきは, 駅と商店街との接続のしかたである.新小岩南口は古くから全長約420メートルにわたるルミエール商店街を有し, 旧駅舎は商店街への短い動線を提供する一方で, 線路による南北分断が日常的な歩行動線に影響を及ぼしていた.自由通路整備以前は駅利用者が南北を移動するために迂回を強いられた面があり, これが商店街の回遊性や高齢者・車いす利用者の利便性に制約を与えていた点は, 旧駅舎および駅前広場の都市計画上の課題であった.新駅ビルはこれを改め, 駅を中核としたまちづくりを再編する役割を期待された.
さらに, 現在は南口駅前において「新小岩駅南口地区第一種市街地再開発事業」が進行中であり, A地区には地上9階・12階の複合施設, B地区には地上39階・地下2階, 高さ約159メートル, 総戸数約540戸の大規模複合施設[商業施設, オフィス, 住宅]が計画されている.B地区は2027年10月着工, 2032年4月竣工予定であり, 新小岩駅周辺は今後さらに大きく変貌すると見込まれる.
@2011-06

今日も街角をぶらりと散策.
index