

ルネサンス期[Renaissance]の神聖ローマ帝国[Heiliges Römisches Reich:800/1806]・ニュルンベルク[Nürnberg]出身で,北方ルネサンス[Northern Renaissance]を代表する巨匠であるアルブレヒト・デューラー[Albrecht Dürer, 1471-05-21/1528-04-06]による1519年の作品.ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵.
描かれているのは, 聖母マリア, 幼児イエス・キリスト, そしてマリアの母である聖アンナの三者である.聖アンナはドイツにおいて特に篤く崇拝されていた聖人であり, 本作においてもその存在は中心的な意味を担っている.聖アンナはマリアを慰めるようにその肩に手を置き, 遠くを見つめるような目をしている.その眼差しは, 自身の孫キリストの将来に待ち受ける「受難」の運命を見通しているかのようである.なお, 聖アンナの人物造形にはデューラーの妻アグネスがモデルとして用いられており, そのための習作も残されている.
同時期のデューラー作品, たとえば1516年の『カーネーションの聖母』や1518年の『祈る聖母』においても, 聖母は大きく見開いた目を特徴としている.しかし本作では, 聖アンナの見開かれた目に宿る異様な光が, 作品全体の特異な印象を決定づけている.その印象は, 沈んだ色調や硬いモデリングとともに近づきがたい雰囲気を画面にもたらしており, 長らく本作に対する評価を低くする要因となってきた.しかし近年では, この独特の緊張感と内省的な表現を重要視する研究者も現れてきている.
デューラーの宗教画においてもっともしばしば取り上げられた主題は聖母, とりわけ聖母子である.これは中世以降とりわけ強くなってきた聖母信仰を背景とし, 画家個人の聖母への深い傾倒が加わった結果と考えられる.祭壇画を除く聖母子の油彩画は比較的小型の作品が約15点現存しており, そのうちの10点が聖母マリアと幼児イエスのみを描いた聖母子画である.版画では約25作品, 素描では約70作品の聖母子画が知られており, それらの制作時期は全生涯にわたっている.なかでも油彩画, 版画, 素描とも1510年代に集中しており, 版画の最後の作例は1520年, 油彩画も1520年代には1点が知られるのみとなっている.これは明らかに宗教改革の影響である.本作はそのような時代の変わり目に生まれた作品として, デューラーの宗教画の系譜においても重要な位置を占めている.
'Beauty is truth, truth beauty,'-that is all Ye know on earth, and all ye need to know.
John Keats,"Ode on a Grecian Urn"
