[一部請求の可否と訴訟物]
 一部請求とは、数量的に可分な債権に関して一部を裁判上請求することをいう。この一部請求については、処分権主義(246条)から一部請求事態が認められるということに関してはは争いがない。問題となるのは、このような一部請求における訴訟物の範囲である。
 この点、紛争の一回的解決の要請を根拠として、一部請求の場合であっても訴訟物は債権全体であると解するべきであるとする考え方もある。この考え方によると、一部請求において既判力は残部についても及び、残部請求をなすことは既判力に抵触するとする。
 しかし、処分権主義からするならば、訴訟上の権利行使に関しても当事者の意思を可及的に尊重すべきであるから、一部請求の場合にはその一部のみが訴訟物になるものと解するべきである。
 このように考えることは、損害賠償請求訴訟において、賠償額の予測の困難性から試験訴訟としての一部請求を認めないと資力の乏しい原告にとって酷であるという結果を回避することができ妥当と言える。
 もっとも、原告の恣意によって訴訟物を自由に分断できるとするならば、被告は二重応訴の不利益を被ることになってしまう。
 従って、被告に反訴提起(146条)の機会を与えるためにも、原告が一部請求である旨を明示したという場合に限って、一部が訴訟物になると考えるべきである。
 そして、訴訟物が一部である以上、一部請求においては残部に対して既判力は及ばず、残部請求は既判力に抵触しないと解する。