[間接正犯における着手時期]
 刑法は法益の保護を目的としています。ですから、そもそも実行の着手をいつ認めるのか、つまり実行の着手時期は何時なのかという問題は法益侵害の危険性が一定程度以上に達したときに認めるべきだと言えます。このことはまた、間接正犯の場合も同じで、間接正犯の実行の着手時期についても、法益侵害の具体的危険が認められる時期というものを犯罪類型ごとに個別に判断するべきだということになります。
 つまりは、被利用者が現実に法益侵害の危険性が高まった行為をなした時点で、利用者の実行の着手が認められるということになるでしょう。
 こう考えると、通常の場合には、被利用行為が行われたときに現実に法益侵害の危険性が高まったと言えますが、全てそうではなくて、利用行為時に現実に法益侵害の危険性が高まるというケースもありうるということになります。
 この点に関しては、正犯というのは実行行為を行う者だということを重視して利用行為時に常に実行の着手を認めようという考え方もあります。ところが、このように利用行為の時点で常に間接正犯の実行の着手を認めるということになると、処罰範囲が広がりすぎて教唆犯の場合との均衡が失われてしまい、妥当ではないというべきでしょう。