[教唆犯の故意]
 教唆犯の処罰根拠を正犯を犯罪に巻き込むことに求める責任共犯論という考え方があります。この考え方によると、教唆の故意は正犯行為が犯罪であるということの認識で足り正犯が未遂でも構わないことになります。しかし、そもそも刑法の目的は法益保護にあります。従って、教唆犯の処罰も法益を保護するためにあるといえます。とするならば、教唆犯の処罰根拠を正犯を犯罪に巻き込むことに求める考え方は妥当ではないというべきでしょう。
 むしろ、教唆犯は正犯を通して法益侵害を惹起するということに処罰の根拠があるというべきです。すなわち、教唆犯は決して結果の惹起と無関係に処罰されるわけではないのです。このことからすると、教唆犯の故意の内容というのは、は正犯行為が犯罪であるということの認識ではなく、正犯の故意と同様の最終的な結果発生の認識が必要だということになるでしょう。