[動機の錯誤]
 「錯誤と言えるためには、効果意思と表示との間に不一致があることが必要よね。その点、いわゆる動機の錯誤の場合には、効果意思と表示との間には何らの不一致もない。だから、原則として動機の錯誤は錯誤(95条)にあたらないことになるわ」
 「少し、補足すると、動機が内心に止まっている限りは、その内心を相手方は知る由もないわけだから、取引の安全を図るという点で動機の錯誤は錯誤(95条)にあたらないとするのが妥当だって言えるわけだね」
 「確かに原則はそうなんだけど、内容の錯誤と動機の錯誤との違いなんて実際には僅かでしょ、区別できないというようなケースが多い。それに、表意者を保護すべきだっていうケースには動機の錯誤がある場合が多いでしょ。
 そういうことを考えると、動機の錯誤の場合には、何が何でも表意者の無効主張が許されないとしてしまうことはちょっとね」
 「動機の錯誤についても無効の主張を認める必要性があるわけだよね。
 そうすると、表意者と相手方の両者の調和の観点からすると、原則として,動機の錯誤は95条の「錯誤」にはあたらないけど、例外的に動機が明示または黙示的に表示されて、意思表示の内容となっているときには、95条の『錯誤』に含まれるって考えるべきだってことになりそうだね」
 「動機も表示されたときには、法律行為の内容となるし、表示を要求すれば、取引の安全を不当に害することもないわね。
 だから、そういう場合では表意者に無効主張を認めることもOKってことよね」