[94条2項類推]
 「いわゆる通謀虚偽表示(94条2項)に似たケースとして、小松吉雄さんが雨宮智香子さん名義に勝手に登記をしていて、そのことを知った雨宮智香子さんが登記があることをこれ幸いと小金沢隆俊さんに権利を移転したなんていうケースがあるわ」
 「雨宮智香子さんは無権利者だね。ということは、小金沢隆俊さんは無権利者と取引をしたに過ぎないということになる。
 それに、通謀虚偽表示とは異なって、小松吉雄さんと雨宮智香子さんとの間には通謀なんてないわけで、そうすると通謀虚偽表示を規定した民法94条2項の適用は出来ないことになる」
 「民法94条2項の適用がないということになると、雨宮智香子さんから権利を購入した小金沢隆俊さんは保護されないということになってしまうわね。
 でも、小金沢隆俊さんは何も知らずに、ただ雨宮智香子さん名義になっている登記を信頼したわけでしょ。だから、小金沢隆俊さんを保護してあげなくてはならないということなるわ。そもそも、通謀虚偽表示(94条2項)は虚偽の外観を信頼した人を保護するために、その信頼した外観通りの硬貨を認めるという趣旨よね。
 ということは、小金沢隆俊さんは登記を信頼した人だという点で、94条2項の『第三者』と保護の必要性は何も変わらないわ」
 「つまり、94条2項を類推適用することで、虚偽の外観を信頼した人を保護すべきだってことだよね。
 類推適用するんだから、小金沢隆俊さんが保護されるためには、94条2項が認められるための要件、(1)外観の存在と(2)相手方の外観への信頼が必要になるね」
 「そして、その場合の信頼っていうのは、原則として『善意』で足りて、無過失は要求されないわね。これはあくまでも原則」
 「ここで、忘れてはならないのは、通謀虚偽表示とは異なって、小松吉雄さんと雨宮智香子さんとの間には通謀はないわけだから、小松吉雄さんの保護も考えなくてはならないことだね」
 「そう、本人、つまり小松吉雄さんの(3)外観作出の帰責性も要件になるわね」