[裁判所の組織と権能]
■裁判所の組織
  (1) 裁判所の性質 非政治的・自由主義的性質、合憲性の統制機関→裁判所の法政策形成機能

政治部門との関係 裁判所は、「法の支配」を実現する者としての役割を期待された非政治的・非権力的機関である。また、同様の趣旨から、提起された紛争を、法の客観的適用によって解決を目指す受動的機関でもある。
国民主権との関係 司法権の独立は、また国民からの独立をも意味するとされている。そうすると、司法権は国民主権に反するのではないかという疑義が発生する。しかし、およそ、裁判所が紛争解決のために拠って立つ法は国民の代表機関によって定立されたものであるという点において国民主権の原理とは反しない。

  (2) 国民審査(§79U)の性質 リコール(解職)説、任命行為確定説
    国民審査(§79U)=最高裁判所は憲法の最終的解釈権限を持つ(§81)。従って、国民主権の立場から司法に対する、主権者たる国民の監視を及ぼすもの。国民審査は衆議院議員選挙の際に実施される。
リコール説(判例) 79条3項を根拠として、強い身分保障の必要性から消極的に不信任されなければ良いとする説。この説に対しては、国民審査は『任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際』に実施されるが、この場合には、任命後間もない裁判官は判断材料が不十分なために解職とする合理的説明に欠けるという批判がなされる。
任命行為確定説 リコール説のように消極的に不信任されなければいいと解するのではなくて、信任されなければならないと解する説。この説に対しては、天皇・内閣による任命との関係をどのように考えるのかという点と10年ごとに国民審査を行うことを説明できないという批判がなされる。

  (3) 最高裁判所規則制定権(§77T)と法律の関係
競合事項説(通説・判例)77条列挙事由については、法律でも定めることができるとする説。根拠として、国会の唯一の立法機関性を挙げる。
専属事項説裁判所の自主性確保という要請を強調して、77条列挙事由については最高裁判所の専権事項であるとする。
一部専属事項説77条列挙事由のうち、内部規律と司法事務処理については裁判所の自律権から専属事項であるとする説。

規則制定権の範囲内の事項について、法律と規則が競合した場合の効力関係
法律優位説(通説) 憲法41条の趣旨。刑事訴訟については憲法31条の要請から。
両者同位説 法律と規則の効力は「後法は前法を廃する」の関係に立つと解する説。
規則優位説 規則制定権の特殊性を考慮して規則に優位性を認める説。

  (4) 下級裁判官の任命 『再任されることができる』(§80T)とは
自由裁量説(実務)再任は任命権者の裁量に委ねられているとする説。この説によると、裁判官の身分保障が著しく不安定なものになるという批判がなされる。
羈束裁量説執行不能の事実や弾劾裁判による罷免事由にあたる事実がない限りは再任されるというのが原則とする説。
身分継続説裁判官は再任される権利があるとする説。この説は条文からは導くことは出来ない。

裁判官の指名・任命
指名任命任命の条件認証
最高裁判所長官内閣の指名天皇が任命内閣の指名に基づく天皇が認証
最高裁判所裁判官内閣が任命内閣の指名に基づく天皇が認証
下級裁判所裁判官最高裁の指名内閣が任命最高裁の指名した者の名簿に基づく高裁長官のみ天皇が認証
内閣総理大臣国会の指名天皇が任命国会議員であること
国務大臣総理が任命過半数が国会議員たること天皇が認証

  (5) 陪審制 憲法上可能か/評決に拘束力を認めることができるか ?、司法権の独立、裁判を受ける権利の観点からの問題
   cf.国民の司法参加
陪審の種類
大陪審一般国民の中から選任された陪審員が、正式起訴をするかを決定するもの。
小陪審一般国民の中から選任された陪審員が、審理に参加し表決するもの。
参審制職業裁判官とともに、一般国民の中から選任された参審員が、合議体を構成して裁判を行う。

日本国憲法のもとで陪審制は可能か。
否定説76条1項は司法権が一元的に裁判所に帰属することを定めていることに抵触するとする。
肯定説(通説)76条は訴訟手続の全てが全部裁判所によってなされなければならないとしているのではないということを根拠として、裁判官が陪審の表決に拘束されないは32条や76条3項に反せず、従ってそのような陪審制の採用は許されるとする説。